伊弉諾神・伊弉冉神 ① 「国生み」と「神生み」の火神被殺まで
伊弉諾尊・伊弉冉尊 概要
伊弉諾尊と伊弉冉尊は、日本神話に登場する男神と女神である。
地上に現れた初めての神で、初めての夫婦神。
国土を産み、森羅万象に宿る神々を産んだ、まさに日本国民の祖神とも言える父母神である。
この記事では、その国生み神話と神生み神話の前半部分をご紹介しようと思う。
伊弉諾神を伊弉冉神を祀る主な神社
伊弉諾神や伊弉冉神を祀る神社の名で、特に縁の深い神社を列記すると、
- 伊弉諾神宮(淡路島)・・・伊邪那岐命の「幽宮」跡とされる
- おのころ島神社(淡路島)・・・最初に産んだ島「おのころじま」との伝承あり
- 多賀大社(滋賀県)・・・古事記の写本の一つに「幽宮」が近江にあったとも読める記載がある
- 江田神社(宮崎県)・・・伊邪那岐命が禊祓をした場所とされる
両神の神名
- 日本書紀・・・「伊弉諾神」「伊弉冉神」と表記される。
- 古事記・・・「伊邪那岐命」と「伊邪那美命」と表記される。
- その他にも、「伊耶那岐」と「伊耶那美」と表記されるものもある。
両神の特徴
- 神代七代の最後に同時に現れた「性別」を持つ最初の神々である。
- 伊弉諾神と伊弉冉神とは兄弟神であるが、夫婦神でもある。
- 極めて人間臭い一面を持つ神々である。親しみやすいのである。
両神の功績
- 日本の国土を作った、すなわち「国生み」の功績
- 日本の森羅万象の神々を生んだ、すなわち「神生み」の功績
以下、この二つの大きな功績に関する神話をご紹介しようと思う。古事記からの引用となるため、以降は「伊邪那岐」「伊邪那美」の古事記表記に従う。
なお、古事記と日本書紀の内容に相違点が多々あるが、ここでは古事記の内容に従う。
国産み神話
おのごろじま誕生
海に漂っていた脂のような国土を固めるよう命じられた伊邪那岐と伊邪那美は、天の浮き橋に立ち、別天津神たちから授けられた「天沼矛」(あめのぬぼこ)で海をかき回し、矛先から滴り落ちたものが積もって出来上がったのが「淤能碁呂島」(おのごろじま)である。
初めての結婚
「淤能碁呂島」(おのごろじま)降り立った二柱の神は結婚する。世界で初めての夫婦が誕生するのである。
伊邪那岐は伊邪那美に「あなたの体は、どのようにできているのか?」と問うと、伊邪那美は「一か所だけ足りない部分があります」と答える。
すると伊邪那岐が「私の体には一か所余った部分がある。私の余ったところをあなたの足りない部分に突き刺して塞ぎ、国土を生みたいと思うが。どうだい?」と言う。
伊邪那美は「それはいいですね」と言う。
結婚の交渉成立である。
始めての性交
天の御柱の回りを、伊邪那岐は左回りで、伊邪那美は右回りで回り、出会ったところで伊邪那美が言う。「おお、なんといい男でしょう」答えて伊邪那岐が言う「おお、なんといい女だろう」
そして、足りない部分を余った部分で塞ぐ。
最初に生まれた子は、不具合があったため「水蛭子」(ひるこ)として船に乗せて流した。二番目の子も不具合があったため船に乗せて流した。その子を「アハシマ」という。
「蛭子」(ひるこ)は蛭子神(えびす)=戎神とし、「アハシマ」は淡島神・粟島神とする説もある。
やり直し
別天津神に「なぜ、失敗したのか」確認したところ、占いによって導きだされた答えは、「女の方から誘ったのが悪かった」ということであった。
よって、今度は伊邪那岐から先に相手を褒め、性交を行うことにした。そうして、日本の国土を生んでいくことになるのである。
大八島誕生
大八島とは、日本列島を構成する大きな八つの島の総称である。生まれた順に列記すると
① 淡道之穂之狭別島(あはぢのほのさわけのしま):淡路島
② 伊予之二名島(いよのふたなのしま):四国
⇒ 胴体が1つで、顔が4つあるとされる。四つの顔とは、
- 愛比売(えひめ):伊予国
- 飯依比古(いひよりひこ):讃岐国
- 大宜都比売(おほげつひめ):阿波国(後に食物神としても登場する)
- 建依別(たけよりわけ):土佐国
③ 隠伎之三子島(おきのみつごのしま):隠岐島
⇒ 別名は天之忍許呂別(あめのおしころわけ)
④ 筑紫島(つくしのしま):九州
⇒ 胴体が1つで、顔が4つあるとされる。四つの顔とは、
- 白日別(しらひわけ):筑紫国
- 豊日別(とよひわけ):豊国
- 建日向日豊久士比泥別(たけひむかひとよじひねわけ):肥国
- 建日別(たけひわけ):熊曽国
⑤ 伊伎島(いきのしま):壱岐島
⇒ 別名は天比登都柱(あめひとつばしら)
⑥ 津島(つしま):対馬
⇒ 別名は天之狭手依比売(あめのさでよりひめ)
⑦ 佐度島(さどのしま):佐渡島
⑧ 大倭豊秋津島(おほやまととよあきつしま):本州
⇒ 別名は天御虚空豊秋津根別(あまつみそらとよあきつねわけ)
最後に本州とは、配置のしにくい生み方だと思うのだが、、、
このあと、6つの島を生むことになるが、ここでは割愛させていただく。
神産み
国生みを終えた伊邪那岐と伊邪那美は、神産みを始める。木、水、山、川、野、風などの自然や自然現象を司る神々を、たくさんたくさん産むのである。
最初に産まれた神
- 大事忍男神(おほことおしを)・・・国産みという大仕事を終えたことを表した神名と言われている。
家宅六神
次に、家宅を守る六柱の神を産む。総称して「家宅六神」と呼ぶ。
- 石土毘古神(いはつちびこ)・・・石と土(壁土)の神。
- 石巣比売神(いはすひめ)・・・石砂の神。石土毘古神と対である。
- 大戸日別神(おほとひわけ)・・・家の出入口の神。
- 天之吹男神(あめのふきお)・・・屋上の神。気吹戸主(いぶきどぬし)と同一神とされる。
- 大屋毘古神(おほやびこ)・・・葺き終わった屋根の神。災厄を司る大禍津日神と同神とされる。
- 風木津別之忍男神(かざもつわけのおしを)・・・暴風から家を守る神とする説もあるが定かではない。
自然の神
- 大綿津見神(おほわたつみ)・・・海の神。
- 速秋津日子神(はやあきつひこ)・・・港・水門・河口の神で、男神である。
- 速秋津比売神(はやあきつひめ)・・・港・水門・河口の神で、女神である。
- 志那都比古神(しなつひこ)・・・風の神。
- 久久能智神(くくのち)・・・木の神。
- 大山津見神(おほやまつみ)・・・山の神。
- 鹿屋野比売神(かやのひめ)別名:野椎神(のづち)・・・野の神で、女神である。
- 鳥之石楠船神(とりのいはくすぶね)別名:天鳥船(あめのとりふね)・・・船の神。
- 大宜都比売神(おほげつひめ)・・・穀物・食物・蚕の神で、女神である。
- 火之夜藝速男神(ひのやぎはやを)別名:火之迦具土神、加具土命・・・火の神。
伊邪那美命から生まれた神
さて、最後に火之迦具土神を産んだとき、伊邪那美命は陰部に火傷を負い、それが原因で病となる。病床で苦しむ伊邪那美命の吐しゃ物からも、神々が生まれるのである。
- 金山毘古神(かなやまびこ、吐瀉物)・・・鉱山の神の男神。
- 金山毘売神(かなやまびめ、吐瀉物)・・・鉱山の神の女神。
- 波邇夜須毘古神(はにやすびこ、大便)・・・土・粘土の神の男神。
- 波邇夜須毘売神(はにやすびめ、大便)・・・土・粘土の神の女神。
- 彌都波能売神(みつはのめ、尿)書紀では罔象女神・・・水の神で、女神である。
- 和久産巣日神(わくむすひ、尿)・・・穀物の生育を司る神。
火神被殺(かしんひさつ)
病に苦しんだのち、伊邪那美命が亡くなる。伊邪那美命の死を嘆き悲しんみ号泣した伊邪那岐命の涙から神が生まれる。
- 泣沢女神(なきさわめのかみ)・・・泉の湧き水の精霊神とされる。
伊邪那岐命は、妻の亡骸を出雲と伯耆の境にある比婆山に埋葬する。妻を失った悲しみは「火之迦具土神」への怒りと変わり、「天之尾羽張」(あめのをはばり)という十拳剣で切り殺してしまう。
その剣についた血からも神々が生まれる。
十拳剣の先端からの血が岩石に落ちて生まれた神々
- 石折神(いはさく)・・・岩を切り裂くほどの威力を持つと解釈する説がある。
- 根折神(ねさく)・・・石折神と対の神。両神から経津主命が産まれたとも言われている。
- 石筒之男神(いはつつのを)・・・剣を鍛える石鎚のことを指すとする説がある。
十拳剣の刀身の根本からの血が岩石に落ちて生まれた神々
- 甕速日神(みかはやひ)・・・火の神であり、かつ、刀剣の神とも言われている。
- 樋速日神(ひはやひ)・・・落雷による出火の表すとする説や、太陽の神とする説がある。
- 建御雷之男神(たけみかづちのを)別名:武甕槌・武甕雷男神・・・雷神であり、かつ、剣の神とされる
十拳剣の柄からの血によって生まれた神々
- 闇淤加美神(くらおかみ)・・・谷間に降る水の神である。
- 闇御津羽神(くらみつは)・・・峡谷の出始めの水を司る神である。
このあと、伊邪那岐命は妻を生き返らせようと、黄泉の国に向かう。そして穢れを受けてしまったため「禊祓」を行い、「祓戸大神」「住吉三神」「三貴子」などの神々を産むことにあるのであるが、それは、次の記事でご紹介することにしよう。
➡ 伊弉諾神・伊弉冉神 ② 黄泉の国・身禊・三貴子誕生・幽宮
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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